2022年1月31日、文部科学省から2つの大きな発表がありました。
- 実施した公立学校採用試験の倍率が、3.8倍に。特に小学校教員の競争率は、2.6倍で過去最低。
- 臨時教員などで教員が補充できずに、2558人の教員不足。(5月1日現在では2065人)
参考:令和3年度(令和2年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント、「教師不足」に関する実態調査ー令和4年1月
いずれも、共通することは「教師不足」。
この一言に尽きると思います。
と不安になりますよね。
そこでこの記事では、高校で教師を実際に10年以上勤めてきた私の経験と、現役の(地方の)現役教員に聞いた
についてまとめていきます。
なお私や同僚は地方の高校なので、都市部や義務教育などで事情が大きく変わることはご了承ください。
目次
教師不足の現状について|高校教師から見た現場の感想
資料を参考に、不足の割合を校種別にまとめると(2021年5月1日時点)
学校種 | 教師不足の割合 |
---|---|
小学校 | 4.2% |
中学校 | 6.0% |
高等学校 | 3.5% |
特別支援学校 | 11.0% |
参考:「教師不足」に関する実態調査(令和4年1月)文部科学省
今回の話は高校なので、上記の表で言えば3.5%の割合で教師が不足している学校が存在しているということになります。
いわゆるブラックバイトのような状況で、「誰か変わりを見つけてくれないか?」「心当たりに声をかけてくれないか?」というのはこの数年でものすごく増えたようです。
地方でこんな状況なので、おそらく
- 過度な人口減少地域
- 子どもの数が増えているエリア(一部の都市部)
などは逼迫した状況になっているのかもしれません。
いずれにせよ、教師が不足している状況は「教師が補充されない(されにくい)」と言うときに、実感します。
採用試験に落ちたけど、教師として働けてしまう現状
以前「常勤講師のメリット・デメリット」という記事を書きましたが、教師として働くには正規採用(公立なら教諭と言います」)以外に
- 常勤講師
- 非常勤講師
この2つの方法があり、このどちらも採用試験の合否は関係ありません。
よって「教師になりたくてもなれない人が多い」のではなく、単純に「教師になりたい人」「教師になれる資格を持つ人」が不足しているということ。
(一旦、少子高齢化やAIの活用などは考えずに)シンプルに考えれば
と言えるでしょう。
教科担当者の不足はない?!現場の本音は…
先ほどの資料によると、中学と高校の教科担当者(例えば、英語の先生とか数学の先生など)の不足は、おおむね無いとしています。
教科担当者の不足している学校数
学校種 | 不足している学校数 | 割合(全体の学校数) |
---|---|---|
中学校 | 16 | 0.17%(9324校) |
高校 | 5 | 0.14%(3502校) |
参考:「教師不足」に関する実態調査(令和4年1月)文部科学省
教員免許には(奥の手と呼べそうな)臨時免許制度や免許外教科担任制度というのがあり、すでに教員免許を持っている先生ならば、簡単に他の教員免許が(期限付きですが)手に入ります。
一応、授与要件には「教育職員検定」を課すよう記載されていますが、すでに教員免許を持っていれば「資質あり」とみなされてほとんどの場合はお金(手数料)を払ったら授与されます。(実務の経験は不問だからです。)ちなみに、3年間の有効期間があります。
いずれにせよ文科省がこの資料(教科担当の不足については、ほぼ問題ありませんと言っている資料)をどういう意図でここに載せたのかはわかりませんが、ひょっとすると「教師は不足してるけど、(現場で対応してもらっているから安心してね)きちんと学習はさせているからね!」ってことをアピールしたかっただけのかもしれません。
教師が不足する主な理由は、2つらしい
以前「#教師のバトンについて」の問題点を記事にしました。
そこでも明らかになったのは、教師のブラックな働き具合。
ともすれば「不幸自慢」のような現実が露呈しました。
しかし、今回報道された資料によると、教師が不足した理由は大きく2つとあります。
- 想定していた見込みよりも、教師が必要になった。
- 臨時教師(常勤や非常勤)が、足りなくなってきた。
第一の理由「見込みよりも教師が必要になった」とは、どうやら想定よりも多く教師が働けなくなったという主張です。
ちなみに、低く見積もっていた(見込みよりも多くなってしまった)ジャンルがこれ。
- 産休・育休
- 特別支援学級の増加
- 病休者
これらによって足りない教師の数が「想定していたよりも多くなった」と言っています。
次に挙げられていた理由が、臨時教師が足りていない(講師登録が足りていない)からと言うもの。
これは少子高齢化社会の影響もあって(ところてんのように後ろから押し出される形で)、これまで講師として働いていた人が正規採用になったおかげで、講師登録が減っていることも大きな要因かもしれません。
採用試験の倍率が下がることによる、現場目線からの問題点
次に、教員の採用試験の倍率が低くなっている話について。
これについては特に小学校で過去最低を記録するなど、顕著になっているようです。
全体の競争率(採用倍率)は、3.8倍で、前年度の4.0倍から減少
(中略)
【小学校】 競争率(採用倍率)は、2.6倍(過去最低)で、前年度の2.7倍から減少
事実として、高校は生徒の定員割れ(募集人数に対して入試受験者数が少ない状態)をしていると、学校全体の雰囲気や在籍している生徒の雰囲気が、徐々に悪化する傾向はあります。
仮に採用試験の倍率が下がり続けて教師が「定員割れ」を起こしたとしても、同じような結果になるかは正直わかりません。
高校の現場目線で言うと、採用倍率が低下している問題については「へぇー」「ふぅーん」程度の感覚です。
教師不足について、現場目線での改善案
この話を展開する前に、教師不足を解消するのに最も効果的なのはお金(コスト)をかけること。
これは最も「シンプルかつ効果的」に人を集める方法です。
でも「それができればやっているよ。」と言う声が聞こえてきそうなので、この方法はなるべく考え無いようにしておきます。
私や元同僚が考える「現場目線で教師になりたい人が減っている」主な理由は、2つ。
- 教師という職業や働き方に、魅力を感じない
- 単純に人がいないので、教師に関わらず人がいない
このうち2つ目の方は、少子高齢化が進む日本では絶対に解決されない「教師になりたい人が減る」理由になります。
そんななか考えるべき最大の問題は、1つ目の「教師に魅力がない」という問題。
これを改善しない限り、教師になりたいと思う人は(当たり前ですが)増えないです。
わかりやすい過去の例であれば「好景気=公務員が不足、不景気=公務員が人気」これと同じですね。
公務員にもなれる人が民間に行ってしまっては、公務員は減っていく一方ですからね。
教師も「職業」である以上、当然報酬の多寡によって「教師になりたい(なりたくない)人」の影響は、あるハズです。
よって「ばら撒き(手当や処遇改善)」は、一定の集客効果(教員になりたい人が増える効果)があるでしょうね。
高校生のうちから、教師になりたい人を呼び込んでおく
次の可能性が、若いうちから教師になる約束で人材を育ていくと言うもの。
自治体によっては高校生のうちから「教師として働けるような独自のルート」を提供している取り組みもあります。
奈良県次世代教員養成塾について
未来の本県教育を担う人材を育成することを目的として、奈良県の小学校教員を目指す 学生・生徒に、奈良県教員等の資質向上に関する指標で示している「人間力・情熱」「授 業力」「生徒指導力」「マネジメント力」を獲得させることを目指す。
引用:奈良県次世代教員養成塾について
大学と連携してプログラムを受講すると、プログラム修了者には大学入試を特別選考にしたり、教員採用試験を特別選考に切り替えたりすることができるメリットがあります。(人数制限あり)
鳥取や島根など地方でも取り組まれていますし、福岡市のような大都市でも実施されているようです。
しかし教師を目指す人は初めから教師しか考えていないので、教師にもなれる人に教師を選んでもらう手段ではないですね。
【イチ押し?】転職時代・副業時代を利用する|教師の種類を分ける
教師に限らずほとんどの業種・企業では人材確保が困難な状況になっています。
また、ご存知の通り2020年以降は「大転職時代」「大副業時代」です。
そこで民間で主流になりつつあるのが、旧来の「メンバーシップ型」(新卒一括採用、定年まで働く)をやめて、欧米のような「ジョブ型」の働き方に置き換えていくというもの。
もちろん教師の仕事をジョブ型にするためには、教師の仕事の役割を明確にする必要があります。
例えば
- 授業だけ指導する先生
- 部活動だけ指導する先生
- 担任業務だけする先生
このように分けたとします。
そうすると、例えば
- 昼間は副業として学校で授業を教え、夜は本業として塾で授業を教える民間の塾講師
- 昼間は法人営業で働いて、夕方〜夜は副業として部活指導をするスポーツ用品メーカーの営業マン
- 民間での人事経験やマネジメント経験を活かして、複数の学校で担任として生徒のマネジメント管理をする脱サラ先生
こんな先生たちが、誕生するかもしれません。
中途採用を増やすためには、魅力的な待遇などを提示して、人材の流動性を高める必要があると言われています。
そこで教師の人材確保についても(逆転の発想で)副業や転職を積極的に歓迎する。
そうすれば人材の流動性も高くなって、教師不足の解消はもちろん、教育効果の質を高めることにも期待ができるでしょう。
定年撤廃
さらに割と現実的な可能性が高いと思うのは、定年撤廃説。
- 教師になりたい若者がいない
- 既にいる教師に長く勤めてもらうしかない
- 自分が働けると思うなら(適性検査を受けて)、定年撤廃
みたいな流れです。
一応2021年現在では、再任用(定年退職後、再び採用される制度)は5年までと決まっています。
資料を参考に令和3年の年齢構成を見ると、
2021年現在、50歳以上の教師はが約22万人いて、全体の3割以上を占めます。
この人たちが10年以内に退職するとなると、単純計算で10年以内に22万人を確保しないと現状を維持できません。
根本的解決には至りませんが、とりあえず向こう10年間を考えると「ごめん、働ける人は60歳超えても何年でも働いていいからね!」という流れは止められないのでは無いかなと思います。